川人綾 | Tell me what you see |2020年12月11日-2021年2月27日

予約来場:2020年12月11日ー12月19日 一般公開:2020年12月20日ー2021年2月27日

2020年12月11日ー12月19日は御予約いただいたお客様に限り、ご来場いただけます。

2020年12月11日からピエール・イヴ・カエーギャラリーにて、日本人アーティスト川人綾の個展« Tell me what you see »が開催される。このギャラリーの展覧会に作者が作品を出展するのは、今回で3度目となる。

東京藝術大学の博士課程を修了した川人綾(32歳)は、現在京都で制作活動を行なっている。学生時代にパリ国立高等美術学校への交換留学を経験している作者は、「2074、夢の世界」グランプリや、東京藝術大学博士課程に在籍する学生の中でも特に優秀な学生に贈られる野村美術賞など、数々の賞を受賞している。

Statement

川人綾の作品は2つの異なる分野から得た考えが基盤となっている。

一つは日本の伝統的な染織技術、もう一つは最新の神経科学である。

川人綾は、幼い頃から我々が認識している世界とは脳が結果としてそう見せているものであり、目は脳神経に送る情報を得るための受信機の役割を担っているということを強く意識してきた。

この考えは神経科学者である父の影響によるものである。父親の研究分野に魅了され、人々が物を作る際に用いる技術と、その技術が我々の視覚認識に与える影響について関心を抱くようになった。

神経科学の研究は、脳が我々の認識する世界を解析するために使っているスキーマを調べるだけでなく、我々の夢や想像が脳内で映像化されるまでのメカニズムについても扱っている。脳内の映像は « visual image reconstruction »(視覚的画像再構成)と呼ばれるプロセスを通じて編成されている。

川人綾はこの人体のプロセスから着想を得て、紙テープを使って複雑な格子模様を再現した作品を制作している。異なる構図、色、被写界深度、間隔、彩度、ぼかしを組み合わせることで、作品を見る者に自分たちの認識能力が現実世界の見え方にどれほど影響を与えているのかについて問いかけているのだ。

染織技術

川人綾はインドの染織技術についても研究してきた。インドで「イカト」と呼ばれる技法は、日本では「絣(かすり)」と呼ばれる技法として受け継がれている。この技法では、最終的に布上に浮かび上がらせる絵柄を描くためにはどのように糸を配置させれば良いかをあらかじめ想定して、繊維糸を染色する。最初に構想した絵柄を寸分違わず描けることはほとんどないが、その不完全さこそが完成した布地を趣のある唯一無二のものとして昇華させているのである。川人綾が博士論文のテーマに選び、作品の根底ともなっている「制御とずれ」という概念がこの技術によって体現されている。

「奄美大島で発展した伝統的な染織技術に、自身の作品に込めている考えととても近いものを見出しました。その考えというのが、手作業によってどうしても生まれてしまう不完全さを受入れ、さらにその不完全さにこそ人智を越えた美しさを見出すというものでした。」

川人綾は、幅5ミリのテープを複雑に編まれた糸のように縦横に貼り重ねて作品を作り上げる。そうして生まれる5ミリ四方の正方形それぞれに色を塗る。色の調和、彩度や輝度の効果、そして作品にぼかしを生むためにアクリルペイントを使うといった技法を組み合わせることで作品に揺らぎを生み出し、作品を見た人々は網膜がとらえた光景に自身の認識とのずれを感じることになる。常に偶然性を孕んでいる制作過程に応じて、様々な視覚効果を生むことができると作者は考えている。

「ピエール・イヴ・カエーギャラリーで開催される今回の展覧会では、作品を見た人々にグリッドペイントに対する私の新しい試みを感じてもらえると思います。出展するのは2016年からずっと取り組んできたシリーズ作品です。私の作品の一番根底にあるのは染織から得た着想ですが、このシリーズはさらに多様な文化や人の影響が私の当初の想像を超えた規模で関わって発展してきました。」

展覧会

今回の個展 « Tell Me What You See »では、作者が博士研究に取り組む中で生み出された作品とそれ以降の作品どちらも出展される。また、川人綾がデコーディッド・ニューロフィードバック(Decoded Neurofeedback, DecDef)1の実験で計測されるマルチボクセル型モデル図の要素を取り入れて制作した、現在Facebook Japan株式会社オフィスに展示されている作品から着想を得て生まれた最新作も出展する。

作品制作におけるデジタルとアナログの工程を融合させる新しい方法を探求することが、この作品のコンセプトとなっている。

「作品制作を通じて、多種多様な要素を編み合わせることでこれまでにない新しいものが生まれるということを学んだと感じています。このプロセスを進めるにはその時取り入れた要素それぞれに対する敬意と理解が当然求められますが、まさにその過程を経ることで、予想外の、それでいて唯一無二の素晴らしいものが生まれるのです。

今、私たちは日常生活の中で罠にかかったように身動きの取れないような感覚に陥っていると思います。しかしだからこそ、新しいものと出会うことが、人々が互いへの理解を深め合い、新しい価値観、新しい美というものを見出すために不可欠なのです。このような状況下にパリで展覧会を開催する機会を得たことを大変ありがたく思います。たとえフランスと日本で遠く離れていようとも、私の作品を通じて、来場者の皆様に日本的な情感や美を感じてもらえたら良いなと心から思っています。」